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無限大

ももいろクローバーZ(ももいろクローバー)、東京女子流、Dream5、バニラビーンズ。
四組それぞれのtwitter小説まとめや小説を掲載しています。
各作品の登場人物は実在しますが、ストーリーは管理人による創作です(事実を参考にしている作品はあります)

『発動』  ももクロ・twitter小説「発動」から

 仄暗い地底のぽっかり開けた空間で、有安杏果はたったひとり、木箱へ覆いかぶさるように座り込んでいた。岩盤がむき出しの天井はビルの三階ぐらいの高さがある。杏果のいるこの空間は、止まない地震のように鳴動している。その影響で天井から岩盤が剥がれ、杏果の頭よりも大きな岩石となって次々と降ってくる。そのひとつが、いつ杏果に直撃しても不思議ではない。
 杏果は鍵を取り出した。木箱を封印してある錠に差し込もうとするが上手くいかない。焦りで身体が思うように動かないのだ。
「落ち着け有安! 革紐もかかってるぞ」
 頭のなかで川上アキラの声が響き渡った。佐々木彩夏の能力で、地底にいる杏果と地上にいる川上の意識は連結されている。杏果の見えているものが川上にも見えるし、テレパシーで会話することも可能だ。
 木箱に何重も巻きつけられている革紐は、厚さが三ミリ以上はある代物だった。ナイフのようなものは持っていない。あたりに落ちている石などでは到底切れそうにない。革紐の結び目はガチガチに締め付けられていて、杏果の腕力でほどくことは不可能だ。
「これじゃ無理だ」
 瞬時に察した杏果は、覚悟を決めて眼を閉じた。時間がない。早くしないと、今いるこの空間が崩壊して生き埋めになってしまう。
 大きく息を吸い、精神を集中させてから、カッと勢いよく眼を開いた。視界に映る革紐へ一気に念をぶつける。バチンという鈍い音がすると同時に木箱がはじけ飛んだ。杏果の狙い通り、革紐を切断することに成功した。しかし――
「う……あああ」
 杏果はたまらずうめき声を漏らした。左手の指がすべて折れた。能力を使った反動で骨が砕けたのだ。杏果の念動力は、思考のみで様々な物理現象を起こす超能力であり、手を使わずに物を動かしたりするだけではなく、杏果の腕力をはるかに超える力を生み出すこともできる。非常に有用な能力だが、大きな欠点があった。それは作用反作用という物理法則が適用されてしまうことだ。革紐を切断するために使われたエネルギーとそっくり同じだけのエネルギーが、物理的打撃となって杏果を襲ったのだ。この反動力が身体のどこに現れるのか、杏果自身にも解らない。
 骨折の痛みに震える身体を必死でおさえつけ、杏果は再び鍵を手に取った。今度はしっかり鍵穴に差し込むことができた。ぐるっと鍵をひねると、木箱の蓋が静かに開いた。
「これが……」
 箱の中身へ手を伸ばそうとした、そのとき。すさまじい轟音が杏果の背後で起こった。反射的に振り返った彼女は、退路を絶たれたことに気づく。この空間へ繋がっていた唯一の通路が瓦礫で埋まっている。
「しまった」
 中身をここで確かめるようなことをせず、さっさと木箱を持って退却するべきだったか。しかし、目的の物が本当に入っているかは解らなかったのだ。現地での確認は必須だった。
 後悔の念を抱きながらも、杏果の精神はそれほど乱れなかった。単身この地底へ乗り込むことになったとき、こうなる予感がすでにあった。
 頭上に視線を移した。ここから地上まで、どれくらいあるだろうか。実際自分の足でここまで下りてきた杏果の感覚は、一キロはないはずだと告げている。おそらく五百メートル前後。それだけの距離を念動力で上へ向かって掘り進み、そこを通すように木箱を飛ばす。
「おい。何考えてんだ」
 川上の声が頭に響く。意識を共有している状態なので、杏果が何を考えているのか、川上には解ってしまうのだ。
 天井へ向けて右手をまっすぐ伸ばした。爆発的な念動力を生み出すため、杏果は集中に入った。
「やめろ! 早まるな! 一気にそんな力を使ったら全身が砕けちまうぞ!」
 川上の声を杏果は無視した。すでに退路はない。脱出する方法はもうないのだ。そして、まもなく自分がいるこの空間は崩壊する。
「わたしがやれることは、もうこれだけ」
 やっと手に入れた木箱の中身を――仲間を救うために必要な物を地上へ届ける。なんとしても。
「川上さん。あとはお願い」
 一方的にそう言った杏果が、念動力を発動させるため全身に力を込めようとしたときだった。
 いきなり手首をつかまれた。
 自分以外誰もいないはずの状況で、突然ありえない感触に襲われたのだ。だが、何が起こったのかを疑問に思う必要はなかった。なぜなら、杏果の眼前に――
「みんなを助けるために杏果が犠牲になってどうすんのよ」
 百田夏菜子が立っていた。
「そんなの何の意味もないでしょ。バカ!」
 こんなふうにリーダーから怒られるのは、いつ以来だろう。茫然としながらも、杏果はそんなことを思った。
「……夏菜子……本当に夏菜子なの」
「あはは。あのとき死んだとおもった? 幽霊じゃないよ。ちゃんと足あるでしょ」
 こんなときに明るく笑う夏菜子が眩しかった。
「さ。詳しい話は地上に戻ってからね」
 夏菜子は杏果の手首をつかんだまま、腰を落としてもう一方の手を木箱にあてた。
「飛ぶよ、杏果」
「うん」
 夏菜子の能力である瞬間移動で、二人と木箱は地底から消え去った。それとほぼ同時に、天井が完全に崩落した。


〈了〉
【掌編小説】
 原稿用紙十枚を上限とする小説。twitter小説を元に物語を膨らませたものがメイン。
 読み切り作品のみ。

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