※これは数年前の秋に起きた実話です

 

 

その日は、地元が台風の進路になり

最接近は真夜中とのこと

 

 

既に時間雨量15ミリぐらい降ってるし

風速も10メートル

瞬間的には15以上出てそう

 

仕事帰り直後でも

対策を講じなければなりません

 

 

 

こういう時にしか役に立たない雨戸が

「俺を使え」と猛アピールしてくるから

 

カーテンを開け

 

窓を開け・・・

 

 

 

その時、僕の思考回路がショートして

フリーズしてしまいました

 

人間、全く想定してないことが起こると

こうなってしまうんですね

 

 

 

自宅のベランダに

体長80cmはあろうかというサギがいて

 

運命の赤い糸で繋がった相手のように

お互い見つめ合い身動きできません

 

 

「お前・・・」

「あなた・・・」

 

じゃない!!

 

 

 

しばらくして、面倒くさそうに

ひょこっ…ひょこっ…と

コイツは移動しましたが・・・

 

 

そのとき初めて異変に気付きました

 

サギは全身血まみれだったんです

 

 

 

(とんびや鷹みたいな猛禽類に襲われた?

 

田んぼでヌートリアにやられたのか?

 

台風の突風で有刺鉄線にでも絡まった?)

 

 

 

でも、もう18時30分ぐらいだし

こんなにでっかい野生のサギを捕まえたら

暴れて傷口が開くだろうし

 

 

台風直撃前のこんな時間に

野鳥を動物病院に連れていくなんて

現実的じゃない

 

 

 

もうサギの自治能力に任せるしかありません

 

でも、免疫力を高めるために

食事くらいは用意しないと

 

 

 

本当はとれとれピチピチの鮮魚がいいけど

とりあえず、味付けしてない

生の小魚があったから皿に乗せ

 

ペットボトルの水と一緒に出します

 

 

 

右側の部屋から窓を開けると

再び、ひょこっ…ひょこっ…と

前いた場所に移動しました

 

 

(しまった!アッチに餌を置いて

向こうから移動させりゃよかった)

 

 

 

まあ済んでしまった事は仕方ないから

サギには悪いけど、反対の窓を開け

餌のある場所に移動してもらいます

 

 

(ふぅ…、何とか餌の位置まで

たどり着い・・・・・・おいっ!!)

 

 

サギは水が入った皿を踏んづけて

7割ほどこぼしてしまいました

 

 

(ああっ、もう!!人の気も知らないで…)

 

 

 

ただ、台風に備え

他の部屋の雨戸も閉めなきゃいけないし

 

翌日が土曜で休みといっても

食事や身支度もしなきゃいけない

 

 

あとは若い人(サギだけど)に任せて

お見合いの仲人のように

退散することにしました

 

 

 

深夜、予報通りに台風は直撃し

 

雨は窓を打ちつけ

風は耳障りな音をたてて

 

通常放送時のジャイアンみたたいに

猛威を振るっています

 

 

家も心配だったけど

いま現在、サギはどうしてるんだろうと

心配でした

 

 

 

一旦、雨の岩戸を閉めた以上

暴風雨のなかで開けても

 

また余計な移動を強いることになれば

無駄な体力を使わせてしまうだろうし

 

 

台風が去ったとき

元気に飛び去っててくれたら

心が晴れやかになるんだけど・・・

 

 

 

 

翌朝、4時50分に起きると

迷惑な「リサイタル」という

名目の暴力は終わり

 

迷惑をまき散らした台風は立ち去ったようで

 

いつもの朝と変わらない

静寂に包まれています

 

 

ズボンだけ履くとすぐ

祈るような気持ちで雨戸を開けます

 

 

 

サギが・・・??

 

いない・・・??

 

いや、いた!

 

・・・端っこで小さくなってるんだ

 

 

 

もう触れて体温をみるまでもなく

サギは亡くなっていました

 

 

万が一の、鳥インフルエンザも考慮し

マスクと軍手をつけ

 

ゴムのスリッパを履いてベランダに出て

サギに近寄りました

 

 

 

昨日はあんなに大きかったはずなのに

 

脚を折りたたみ

 

翼を折りたたみ

 

その上に首を折りたたんだ頭を乗せ

 

布団圧縮袋でもあり得ないほど

コンパクトになっています

 

 

 

死後硬直したサギは

袋のフチに引っ掛かることなく

半透明の袋にピッタリ収まりました

 

 

あり得ない話だけど

遺体を運ぶとき手がかからないように

気を遣ってくれたのかもしれません

 

 

 

どこかに墓を作らないといけないけど

 

自宅の庭に飼ってもいなかった

でっかい動物を埋めるのも・・・

 

 

考える間もなく

鮮明にある場所が浮かびました

 

 

 

自宅から400mほど先に

1年じゅう緑に覆われ

花が咲き乱れている素敵な場所があります

 

最初に浮かんだこの場所こそ

埋葬するのにふさわしいと考え

 

 

 

帽子を深く被り

(コロナ期以前だけど)マスクを着け

 

工事現場で使うような

大きなスコップを持ち

 

うっすらと日が昇りかけた道を

足早に進みます

 

 

 

到着した場所は思った通り

百花繚乱の花々に囲まれ

 

ヒマワリが元気に

「おはよう」と挨拶してくれました

 

 

 

野犬が掘り返さないよう

70cmほどの深い穴を掘り

 

袋から出したサギに最後の別れをして

元あったように土を被せていきました

 

 

最後にもう一度手を合わせ

スコップと血が付いた袋を持って

帰宅しようとした時・・・

 

 

犬の散歩をしている

お爺さんと目が合いました

 

 

お爺さんは、そんなに端に寄ったら

ブロック塀で体が擦れちゃうよって

いうぐらい端に寄り

 

 

犬のペースなど完全無視で

強引に引きずりながら

 

 

競歩の選手が嫉妬するほど

異常な早歩きで立ち去ります

 

・・・。

 

そのとき初めて

僕は客観的に自分を見つめます

 

 

 

早朝5時

帽子にマスク姿

 

でっかいスコップ

 

血が付いた袋!!

 

 

これ以上ないくらいの

不審者やん!!

 

 

弁解しようと追いかけたら

大声で叫ばれそうだし

 

できるだけ早くこの場を去るしか

選択肢ないじゃん!

と決心したところで・・・

 

 

2人目のオバちゃんと

目が合いました

 

先ほどの人とは違い、散歩していた?女性は

 

 

軍隊のように

回れ右して立ち去り

 

 

やはり、弁解しようと追いかければ

シャレにならない結果になりそうなので

 

まごうことなき一目散に帰宅しました

 

 

 

スコップを洗い、袋と軍手を処分し

 

血が付いたベランダはカビキラーと

ブラシで割とあっさり落ちました

 

 

 

最後はてんやわんやになりましたけど

 

あのサギは、今でも花が咲き乱れる場所で

静かに眠っています