『耳根は颷谷の響を投ずるに似たり、過ぎて留めざれば、是非倶に謝す、
心境は月池の色を浸すが如く空にして着せざれば物我両ながら忘れる。』

 

耳に入る雑音は、谷間を吹き抜けるつむじ風の響に似て、

聞き流してしまえば、もはや是非も善悪もなくなってしまう。
心に浮かぶ思いわずらいは、水面に映る月の光のように、

そこにあると思わないように心を空にして執着しなければ、

物も我もともに忘れ去ってしまう。
これぞまさに道を悟った人の心境だ。

 

「菜根譚  著者 釈宗演  訳 齋藤孝」より