知らない街にいた。

真冬の寒空の下だというのに、広場にはたくさんの人がいた。
これから花火大会があるらしい。
人混みに懐かしい同級生の顔が見えた。
かき分けて近付くと7.8人の同級生達が集まっているのかわかった。
みんな久々なのか、○○背伸びたなー!とか話している声が聞こえてくる。
その子の背が伸びたかなんて正直さっぱりわからなかった。
1、2cm変わったところで目線は変わらない。
今も昔も、私は同級生の誰より背が高かった。
そんなことを考えていたら、輪の中の1人が私に気付いて口を開いた。
「久しぶりだね、帰ってきたんだ」
彼女は私と同じくらいの背丈をした長い黒髪の少女だった。
20代にしては幼くて化粧っけもなくて、見た目は高校生くらい。
同級生にこんな子いたっけ?
人混みに目を泳がせながら、曖昧な相づち。
会話はそれで終わった。

ぼーっと人混みを眺めていたらふいに腕を掴まれ顔を上げると、彼女は楽しそうに私の腕を掴みながら反対の手で近くの立橋を指さしていた。
「花火がもっときれいに見えるよ」
周りにいたはずの同級生達の姿はもうなかった。

腕をひかれながら人混みを抜け立橋を登る。
登りきるのが早いか、視界の隅で白い光が打ち上がるのが見えた。
誰もいない立橋、なんの障害物もない景色。
真っ白な大輪の花が咲き、花びらが夜空を舞う。
夜に飲まれまいと、次から次へ花が咲く。
みるみるうちに夜空は花々で埋め尽くされ、ついに真っ白に染まった。

きれいだった。

黙って眺めていると、まだはじまったばかりだというのに少女は立橋の向こうに走りだした。
なんだか私も追いかけなくちゃならない気がした。
きらきらと照らされた夜の街を走り抜ける。
長い髪が顔にまとわりつくのも気にならない。
走って走って、懐かしい学校にたどり着いた。
知らない街のはずなのに、懐かしい。
階段を駆け上がりながらやっと気付いた。
ここは私の母校だ。
息を切らしながら勢いよく屋上の扉を開ける。
視界いっぱいに広がる花火に飛び混む。
眩しいくらいの光の中に少女の影がふわりと溶けた。

この日一番の大きな花が咲き、花びらがひらひらと夜空を照らす。
ひとつ、またひとつ。
最後の花びらが夜に飲まれた。

賑やかで輝いていたはずの街はもうなかった。