低調 | ルノアール日録

低調

31日の土曜日、紀伊國屋ホールで「M&Oplaysプロデュース オリガト・プラスティコ」の『しとやかな獣』(作/新藤兼人 演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ)を観劇。

川島雄三監督の傑作映画を、果たしてケラが舞台作品としてどう料理するのか!?と期待しつつ観に行ったのだが、正直期待外れ。

最重要人物であるところの、芸能プロダクションの会計係を演じた緒川たまきが、何とも迫力不足。演技的なレベルもさることながら、存在感そのものが乏しく印象に残らない。映画で同じ役を演じた若尾文子とは較べるべくもない。尤も、1960年代前半の若尾文子と較べることそのものが酷ではあるのだが。それにしても役不足の感は否めなかった。

すほうれいこはバスルームの扉越しのオールヌードなど、体当たりな姿勢は買えるのだが、発声が古い舞台女優のようで、台詞回しがどうにも不自然であり、筆者にとってダメな舞台特有の違和感が拭えず。

このユニットの主役である広岡由里子も、昨秋の本谷有希子作品「幸せ最高ありがとうマジで!」の時のような冴えが乏しかったように感じられた。

時代設定、展開など映画の作りに忠実ではあったが、そのぶんケラ特有のサムシングも不足気味で、全体的に低調。そもそも、敗戦直後の混乱期を日本の一般的な都市住民がどう生き抜いたのか、ということが重大なバックボーンになっているこの新藤脚本を、現代の俳優が何のエクスキューズも無しに演じることの意義の不鮮明さ、説得力の無さが、何とも致命的。映画と舞台/演劇はやはり別物なのだと、あらためて実感させられてしまった。

ただ、女優陣に比して男優陣のレベルは高かったと思う。父親役の浅野和之の上手さ、息子役の近藤公園の、時代がかった台詞をよく咀嚼した演技っぷりはさすが、と思った。