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「天のしずく」観ました。

http://tennoshizuku.com/

料理に材を取ったドキュメンタリー映画。
最近このパターンって多い?
今年になって観ただけでも「次郎は鮨の夢を見る」とか「イラン式料理読本」とか。

でもその2作品とちょっと違うのは長さかな。
それらが1時間半に満たない「小品」であったのに、本作は堂々2時間の「大作」である。
ドキュメンタリー映画で2時間はちょっとキツいかな。
前半の1時間は全く時間を気にすることなく没入できたけれど、後半はちょっと散漫になったな。
せめて100分にまとめられなかったかな。

とはいえ、全体のゆったりしたテンポを考えるとある程度の長さは仕方ないのかな。
「次郎は~」は本当にすばらしい作品で、職人の厳しさだけでなく、粋な感じや軽みが表現されていた。
ただ、ネットで検索したら、ネガティブな感想ばかり。
「3万円のコースしかないような高級店なんかくだらない」みたいな意見が主流。
そりゃたしかに3万の店なんか行けないけどさ(笑)
でも映画自体は2000円弱じゃない?
その金額で、3万の店の雰囲気を感じることができるのだから、こんなにぜいたくなことはない。
そういう人は、マクドや吉牛のジャンキーな食べ物でおなかを満たすことしか知らないのか。
食というものは文化であり、それを紡ぐ人が必要なのだ。
本作はそんな作品だと思う。

主人公の辰巳さんの作るスープは非常に手間がかかったもので、
(そんなゲスなことは考えないけれど)これがレストランのメニューならばそれなりの高い金額になるはず。
でも、金額でものを図るべきではない。
そこにあふれる思想というか、食を大切にする心こそ、我々が本作品からくみ上げるものなのではないか。

そういえば川越シェフの一件もあったよね。
川越シェフの主張ってすごくわかるよ。
さすがに年収300万や400万っていう数字を挙げたのはダメかもしれないけれど
細かいお金のやりくりが生活の中心にあって、
自分が支払った対価を得ることを重要視する人間には、やっぱり心の贅沢は味わえないのだな、と。

もちろんボクも年収300万や400万っていう人間だけど、
現実的なもののやりとりより、精神的な満足感がそこにあればいいと思う。

ジャンクフードでいいやんっていう人はそれを食べればいいし(コストパフォーマンスは絶対に高いしね)
一方、
それを作った人の気持ちが見えるものっていうのをボクは食べたい(っていうか消費したい)。

お金の話ついでに言えば、ボクの中で、時給10000円の仕事と3000円の仕事は分けていない。
いずれも同じテンションで、同じ熱意で、同じ手間をかけて授業をしている。
そもそも時給っていうのは我々雇用される側の概念ではなく、
雇用主の方の概念であり、
その金額に見合う価値があれば、継続して仕事をいただけるが、
そうでなかったら解雇されるのみ。
ボクが時給10000円もらっているとすれば、
それは雇用している側がボクにその価値を認めてくれているってことだし、
逆に時給3000円の仕事にしかありつけないとすれば、
ボクはそれだけの仕事しかできていないという評価なわけだ。

でも、あくまでそれは外からの評価であって、自分のモチベーションではないよね。

だから本作を見て思うのは
単なる食事にそれだけの手間をかけるのは
自分の気持ちとして、食にそれだけの価値があると感じているからだろう。

88歳のおばあちゃんが、そういう思想を後の世代へと伝えていく。
ボクも、後進の者たちに仕事の純粋さを伝えることができるのだろうか。

戦争によって夫を亡くした悲劇を語る辰巳さんに88歳という年齢の重みを感じる一方、
「地震と津波は仕方ないが、原発はダメだ」と言い切る強さに現代人としての鋭さも感じた。

本作に登場する芸術家の男性が言う。
アートという言葉が障壁となり、観る者が身構える。アートではなく、直接的に感じて欲しい。

なるほど、辰巳さんの料理も一つのアートなんだろうが、
とりわけスープにすることで味や栄養がそれを食する人の体内に直接届けられる、という。
スープは、障壁のないアートであり、それが本来のアートなんだろうな。

身に沁み入るような感覚、それが本作の真髄にあるのだな。