僕らはベッドで抱き合っていた。運動会がおじゃんになってだれも学校にこないことで、却って安心感が湧いた。メイプルは服を脱いだ。僕も服を脱いだ。僕らは裸になった。シーツの上に寝そべったメイプルの胸を触った。手のひらで揉んだ。固い感触だった。手を小刻みにうごかしてみるとメイプルは感じて声を出した。
「気持ちいい?」
 メイプルは「うん」と答えた。僕はメイプルの横に寝そべって身体をくっつけた。右手でメイプルの胸をいじっているが左手はメイプルのおでこにかかった前髪をかき上げて、頭を抱いていた。僕はメイプルを大事にしようと思った。一生大事にして一生一緒にいようと思った。僕はメイプルのほっぺたやおでこをキスしまくった。
 僕はメイプルの唇をひらかすと舌を入れてキスした。背中に腕を回した。メイプルの腋の下から手首を出すと、僕はメイプルの心臓側の胸をそっと掴んで中心にある固くなった突起をいじった。メイプルの両脚をひらかせた。股間を触ると、濡れてた。穴から粘液がいっぱい出てるんだ。
 僕は胸の突起をいじくりながらメイプルの股間を触った。粘液に指を濡らして股間にある豆粒大の部位をつまんだ。親指と人差し指の指先で豆粒をヌルヌルいじくると、メイプルは声を出した。人差し指の腹を豆粒に押し当てた。そのままブルブルこすった。メイプルはこれ以上ないくらい高い声を出して、何秒かすると、下半身をビクビク震わして逝った。
 僕は逝ったメイプルにまたキスした。それからまた豆粒に指を当ててこすった。今度もまたメイプルはあっという間に逝った。満足させてやろうと思い、僕はたてつづけに同じ動作を繰り返した。メイプルは何度も逝った。逝くたびに声は高くなり、逝ったあとも喘いでいた。
 それから僕らは器官同士をくっついてつながった。
「メイプル」僕はゆっくり器官をうごかしてきいた。「メイプルのなかに出してもいい?」
「赤ちゃんできちゃう」メイプルが言った。
「できたら産んでね」僕が言った。
 メイプルは喘ぎながら微笑んで僕の首の後ろに両手を回した。「好き。カイル」とメイプルが言った。僕らはキスした。
「僕がほしい?」
 メイプルにきくと、メイプルはうなずいた。
「僕もメイプルがほしい」僕はメイプルのなかで器官を急速にうごかした。「僕はメイプルのものになってあげる」
 僕らはつながっている最中、保健室の窓のそとでさっきの小鳥がこちらをじっと眺めていることに気づかなかった。
 
 夢中の何時間かが経ち、僕らはベッドでグッタリと寝ていた。目が覚めると起き上がり、弁当のつもりでもってきたサンドイッチをメイプルと分け合って食べた。お腹が空いてたから美味しかった。
 食事がすんでからも僕らは抱き合っていた。
「カイル」メイプルがきいた。「まだ運動会のこと、ガッカリしてる?」
「うん」僕は答えた。「できなかったのは残念だよ。残念でならないよ。でも、そのかわりにメイプルがヤらせてくれたから、幸せだよ」
「よかった」メイプルが笑った。「わたし、すごく気持ちよかった。カイルと一緒にいられて幸せ」
「本当に、僕らは僕らさえいれば幸せだねえ」と僕は言った。「この町にいるのは僕らだけでいいよ。みんないなくなってしまえばいいんだ。頑張らない人たちなんか」
 その時、保健室の窓のそとで羽ばたく音がした。小鳥の羽音だった。木の枝から飛び立ったらしい。
 僕とメイプルは学校で別れて家路についた。運動会がなくなったのは悔しかったが、今日のことに満足していた。僕は明日からメイプルと生きてゆくんだ。二人でひとつになって生きるんだ。
 道端の木から声が聞こえた。
「女とひとつになって生きたいか?」
 どうもそう聞こえた。まちがいない。木がいま僕が心のなかに思ったことを読みとって喋ったのか。そう思って不思議になった。すると木の枝に小鳥がとまって僕のほうを見た。
 真っ黒い円らな目の鳥だった。
「いま言ったのは小鳥かい?」
 僕が小鳥にきくと、小鳥はくちばしをひらいた。
「町のみんながいなくなればいいのか?」
 小鳥はそう言った。あらためてきかれると返答に困った。僕とメイプルだけ残して頑張らない人たちがいなくなればいいと言ったけれど、本当になるわけがない。
「……僕は頑張らないやつらが嫌いなだけだ」
 僕はそう答えた。すると小鳥はうなずいた。確かにそう見えた。小鳥は枝から飛び上がり、去って行った。
 買い物をして帰ろうと思って市場へ寄った。市場でピロシキを買ったおじさんが紙袋を担いで歩いてた。僕はおじさんの後ろからコッソリ近づいて紙袋のなかのピロシキをひとつつまんで食べた。振り向いたおじさんに「こいつめっ」と怒られた。僕は走って逃げた。
 肉屋に寄ると軒先に骨つき肉とソーセージがぶら下がっているのに、肉屋さんはいなかった。
「あれ? どうしたんだろ」僕は声を出した。「だれかいませんかあ」
「どうしたの?」
 隣の魚屋が言った。肉屋さんがいないと話すと「変だね。ついさっきはいたよ」と言われた。
 肉屋さんがいないから僕はその場を離れた。市場のなかを歩いていると、アーケードのいちばん奥の突き当たりに大きな鳥がいた。そう、鳥だ。人間の背よりも大きくてとてつもないくちばしをした鳥の化け物だ。でもそいつは首から下が人の身体だった。
 僕は立ち止まった。鳥は巨大なくちばしをあけて人間を飲み込んでいた。モグモグやってゴクリと飲み込む。飲み込まれた人は鳥の体内を通ってゆく。妊婦のお腹を胎児の足が蹴る具合に鳥の人体を飲み込まれた人の身体のかたちが通過するのが見える。鳥のお腹がグニャグニャうごめく。
 鳥のお尻の下に地面があった。地面にはマンホールそっくりの穴があいてた。穴のなかは真っ暗で底知れない。鳥が飲み込んだ人間が鳥のお尻の穴から出てきた。長いこと鳥のなかにとどまったりせず、すぐに排泄してしまう。お尻の穴から出た人間はもとの姿だが足胞のような風船状に膨らんだ膜に包まれている。人間は風船ごと穴に落ちた。
 穴に落ちる時の人間の悲鳴が聞こえる気がした。でも声を耳にしていない。
 鳥は傍らの人間のストックを大きな手で鷲掴むとたちまちひらいたくちばしのなかに飲み込んでいった。僕はいま飲み込まれたのは肉屋さんだった気がした。飲み込まれた人はまた鳥の身体をグニャグニャ通ってお尻の穴から出てきた。風船の膜に包まれ、なすすべもなく穴に落ちた。
 人間を飲み込んでいるあいだ、鳥は喜びもしていないし、美味しそうにも見えなかった。僕はこの鳥の化け物がさっき言葉を喋った小鳥じゃないかと思えてきた。
 どうやってさらってきたのか、鳥のそばに何人も人間が集められていた。鳥の手がグイと鷲掴んで食べられる時も全員無抵抗だった。たぶん頑張りたくない人たちだからかもしれない。頑張らない人は鳥のくちばしに飲み込まれて、嚥下され、鳥の体内を通るとお尻の穴から出て地面の穴へ落ちてゆく。
 鳥が目にもとまらぬ早わざで掴んで飲み込んだ人が、お尻から風船に包まれて出てきて、庭師のおじさんだったと気づいた。また小さい人が鳥にひと息に飲まれて、お尻から出てくる時によくよく見れば昨日帽子のゴムひもを口にくわえてた坊やだとわかった。坊やは穴の深淵に落ちた。
 それから鳥が最後のストックの人間を鷲掴みにし、くちばしから飲み込む時、飲み込まれる人が校長先生だと僕は気づいた。校長先生は頭から鳥に飲まれてゆき、ズボンをはいたままスッポリくちばしのなかに収まった。間もなく鳥のお尻の穴がガバッと拡がって、風船の膜に包まれた校長先生が頭から穴に落ちていった。
 ストックがなくなると鳥は町の人たちを捕まえに出かけて行った。
 市場を出て道を歩いていると、道端の木が増えている気がした。確かめたわけではないがどうも見たことのない木々が生えている。近寄ってみた。低いツバキの木が生えていた。この木はどうもさっき鳥に食われて穴に落ちていった坊やのような感じがした。穴から落ちて地底で分解され、木になって生えたらしい。
 隣にサルスベリが生えていた。肌はすべすべしているが花は咲いていない。このサルスベリは校長先生だと思った。
 町の人たちがどんどん鳥に食われて木になっていく。僕はメイプルに会いたかった。メイプルが鳥に食われていないか、心配だった。僕は家に帰らず坂の上のメイプルの家へ急いだ。
 メイプルの家につくと、僕は呼んだ。
「メイプル」もう一度呼んだ。「メ、イ、プ、ル」
 窓があき、メイプルが顔を出した。僕はホッとした。
「よかった。メイプル、無事なんだね」
 僕はメイプルを抱きしめた。
「もちろん無事よ」メイプルが言った。「カイル、どうしたの?」
 僕は巨大な鳥の化け物が次から次へと町の人たちを飲み込んで、その人たちが新しく木に生まれ変わっていることを話した。
「まあ、なんてこと」メイプルはおどろいて口元を手で覆った。「その恐ろしい鳥、なぜ人を食べるのかしら?」
 僕はうなだれた。町がこうなったのは僕のせいかもしれないんだ。僕が頑張らないみんなを憎んで、いなくなればいいと思ったせいかもしれないんだ。僕は小鳥と喋ったことをメイプルに打ち明けた。
「じゃあ、その小鳥が巨大化して人を食べるようになったのね」
 メイプルは言った。
「このままだと町じゅうの人たちが一人残らずあいつに食べられてしまう」
 僕が懸念を口にすると、メイプルはニッコリ微笑した。
「いいじゃないの。カイルとわたしが生き残れれば」メイプルは言った。「ねえ、町の人ほとんど食べられたんでしょう? なら、だれにも見られないから、そこでヤらない?」
 メイプルは窓から身を乗り出して道端の芝生が生えたあたりを指さした。そこらは柔らかいクローバーも生えていて昼寝するのにうってつけだ。
「……うん。いいよ」
 メイプルは部屋のなかで裸になると、窓から出てきた。僕は裸のメイプルを抱っこして草の生えた道端に寝かした。僕も服を脱いで裸になった。メイプルにかがみ込むと僕の器官はもう血を吸い込んでパンパンに膨らんでいた。
 柔らかい草をベッドにして僕らは器官をくっつけ合った。僕のものがメイプルのなかに滑り込んだ。たまらなくこすった。
 ヤッている僕らの傍らにそいつが立ったのに気づいたのはメイプルが何度目か逝ったあとだった。
 声がした。
「二人でひとつになりたいんだろ」
 振り向くと巨大な鳥が立っていた。視界が急にぼやけた。僕とメイプルの身体が干からびてゆくのが感じられた。皮膚はかさかさになり、固くなってゆく。
 僕とメイプルは地面に根を張った。僕ら二人はひとつの結び合った低い木になっていた。土から養分を吸い込み、生きてゆくんだ。
 そして地面すれすれのところ、メイプルの姿のなごりの粘膜を帯びた穴のなかに僕のなごりの出っぱった太い節が入り込んでつながったままになっている。節は穴のなかで音を立ててうごめいている。穴のふちは湿り気があり、ヌラヌラしている。