スト生妄想短編小説 工藤夢心編 | 徒然なる雑多文 -Life is unfair- アメブロ別館

スト生妄想短編小説 工藤夢心編

「夢心チーム抜けるらしいぜ」
余りに突然の言葉に僕は意味を理解できなかった。
「えっ!?なんだって」
何も考えずただ声が出た。
「夢心がチームを抜けるってよ」
理解できないフリをしていたがやはり答えそのままのようだ。
「なんで!?夢心が!」
ついつい声を荒らげてしまった。
「知らねえよ!ただ辞めるしか聞いてない。リーダーが言ってたのを聞いただけだからな」
夢心がチームを抜ける?
何でだよ。全国大会がもうすぐそこまで来ているのに…

夢心と僕は北海道のとあるダンスチームに所属している。
道内ではそれなりに有名で北海道でダンスやってる人なら知らない人はいないと言うと大げさだがそれぐらいの自負は皆持ってるつもりだ。
一緒に全国目指そうってチーム皆で誓ったのに…

気付いているだろうが僕は夢心が好きだ。
夢心と同じ道を歩む中でどんどん夢心がこのが気になって来た。
夢心とはチームの仲間以上に一緒に夢を叶えたいという特別な感情を持っていた。
それなのに夢心がチームを辞めるなんて。

とりあえずリーダーに事の真相を聞くまでは僕の心は収まりそうもない。
リーダーの携帯に電話をかける。
コールの音が永遠のように感じる。
一回、二回、三回、永遠。

「もしもし」
受話器越しにリーダーの声がした。
「もしもしリーダー。工藤が、夢心がチーム辞めるって本当ですか?」
受話器越しにリーダーの息を飲む音が聞こえた。いや聞こえた気がしただけかも知れない。
「ああ、工藤から連絡があってチーム辞めるってさ」
心のどこかにあった嘘ではないかという思いは崩れ落ちた。
「なんで夢心が…」
僕の声は震えていたはずだ。
「さあなあ。辞める奴に理由を聞いてもしょうがないだろ。理由は聞いてない。あいつと受験とか家庭の事情とか色々あるだろ」
リーダーを早口で言った。
「では知らないって事ですか?」
必死に声のトーンを下げて聞く。
「ああ、理由が知りたいなら本人に直接聞いてみろよ」
聞けないからあんたに聞いてるんだろ!と言う声が出そうになるのを我慢した。
「あ、分かりました。ありがとうございます。」
夢心がチームを辞めることは分かった。でも理由は分からないままだ。
(夢心に聞くしかないのか)
当たり前の事がこれが僕にとってどれぐらい大変なことか。。。
(でも聞かないと…)

メール?LINE?そんなのでは聞けない。
夢心の声で真相を聞きたい。
でも、夢心に電話をかける手は動かない…
何故だ。これがイップスってやつなのか…

勇気が出ない僕は街に出た。いや夢心の家の近くに向かった。
所謂、待ち伏せって奴だ。
ストーカー禁止法に違反しちまうのかな?なんて考えたけど夢心がいない人生なら逮捕されてもいい。
夢心の家に繋がる一本道で何時間も待った。北海道の冬には慣れているけどそれでも身体には堪える。
(もう夢心は来ないのかな…)
なんて思った時に遠くで人影を見つけた。
(夢心???)
確信はないが夢心に似たシルエットが見える。
その人影がこちらに来るのを待つ。スマホに弄りながらたまたまを装う。
人影は確信に変わった。
(夢心!!!)
すれ違う夢心と目が合う。
「あっ。」
夢心の声が漏れる。
「よう!偶然だな」
明らかにおかしな男だ。
「なんでここに?」
当然の疑問を夢心は口にする。
「たまたま」
そんな嘘が見抜けないほど夢心はバカじゃない。
「何か聞きたいことがあるんでしょ?」
夢心から助け舟だ。でも僕は
「いや、そのなんだ…」
簡単な言葉さえ出てこない。「チーム辞めるのか?何でだ?」
それを聞きたいだけなのに。
全てを察した夢心の方からの話をしてくれた。
「私がチーム辞めるって話。聞いたんでしょ?」
声が出なかったので首を縦に振る。
「なんで辞めるか知りたいんでしょ?」
「えっ、う、うん…」
僕の顔を見た夢心が話を続ける。
「理由を聞いても絶対笑わないって約束してくれる?」
(えっ!?)
驚きながらも黙って頷く。
「あのさ、実は私がダンス始めた理由ってダンサーになりたかったからじゃないんだ。」
初めて聞く夢心の告白に驚きを通り越して凄く冷静な自分がいた。
「実はアイドルになりかったの。アイドルになる一環としてダンスを習ってたんだ。」
そうだったのか。その言葉を聞いて全てを悟った。
「じゃあ辞める理由って、、、」
夢心が声を被せて答える。
「うん、実はアイドルストリートのオーディションに合格したんだ。私がアイドルなんて笑っちゃうよね(笑)」
「でもさ、やっと掴みかけた夢なんだ。本当に悩んだしチームの皆を裏切ることになるのが辛かったけどやっぱり自分の夢だから挑戦してみたいんだ。」
夢心の夢を応援してあげたい自分とこれからって時に何を言ってるんだ!やめろよ!アイドルなんか!
そう言いたい自分が天秤にかかった。
結局、「そうか…」
それしか言えなかった。
夢心と夢と夢心が遠くに行ってしまうという思いが頭の中でクルクルと回っている。
卑怯な僕は夢心がアイドルになって遠くに行くのが納得できなかった。でも、僕は夢心の彼氏じゃない。。。
ただのチームの仲間だ。夢心は俺のものだ!どこにもいくな!アイドルになんかなるな!
その言葉を言えるような男では僕はなかった。

「そうか。じゃあ、おやすみ。」
そう言って僕はここから逃げ出した。きっと泣いていただろう。
でも、そんな顔を夢心に見せれなかったから僕はここから逃げ出した。

それから夢心がチームの練習に来ることはなくなった。
最初はチームの仲間も夢心がいないと寂しいね。アイドルの夢を叶えて欲しいね。
なんて話していたが一ヶ月もすれば誰も夢心の話をしなくなった。
今年だけでもチームから五人が色んな事情で抜けている。
夢心もその一人に過ぎないんだから。
でも、僕は夢心には特別な感情を抱いていたし夢心は特別な存在だったから何ヶ月経っても忘れることはない。

夢心に会いたい。。。

でも、あれから夢心に連絡は取ってないし取る勇気もないしもしかしたらアイドルになる夢心には既に繋がらないのかも知れない…

僕はアイドルストリートの公式ホームページをチェックして夢心の活動を追った。
でも、夢心のプロフィールとブログが載ってるだけで特に北海道での活動がある様子もない。
やはり北海道のグループでも活動の中心は東京らしい。
学生の僕には簡単に東京になんかいけない。

夢心のブログは毎日チェックしている。
ついこの間まで一緒に夢を目指していた仲間のアイドルとしてのブログをチェックする行為の気恥ずかしさは理解出来るが僕にはそれしか出来ない。

そんな生活を続けていたらようやく地元でイベントがあるという情報が載っていた。
昔の仲間が応援に行く。何の不思議なことはない。自然なことだ。
そう言い聞かせる自分ともう夢心には会わない方がいいと思う自分がいる。
(アイドルに昔の仲間が現れた夢心にあらぬ噂が立てられて夢心に迷惑がかかる…)

でもとにかく夢心がステージに立っている姿が観たかった。
チームの頃から夢心のダンスが大好きでその夢心のダンスを観ているうちに好きになったのだから。
そうだ、僕はただの夢心のファンだ。ダンスが好きだから夢心のファンになる。至極自然なことだ。

勇気を出してチケットを買い当日、会場に足を運ぶ。
以前にダンスのコンテストに出た会場だから迷うことはなかった。
何組かのアイドルが出る対バン形式らしい。
夢心が出るのは五番目らしい。
ただボーッと他のアイドルのパフォーマンスを観た。
でも、頭は夢心で支配されてて何も覚えてなんかいない。

ついに夢心の番が来た。なかなか人気があるようで盛り上がっている。
夢心はダンスチームの頃とかわらないキレッキレとダンスで会場を魅力している。
(流石、夢心だ)

「次の曲はときめき色の風とキミです」
と夢心がMCをする。
夢心は持ち前のリーダーシップを活かしてキャプテンをやっているらしい。
あの頃の変わらない明るい夢心がメンバーからもファンからも愛されているようだ。

曲の間奏の夢心のソロダンスに見とれていると

「ゆめものダンスはキレッキレ!ゆめものダンスにキレッキレ!」


とファンたちがコール?と呼ばれる声を出している。その声を聞いた夢心の本当に嬉しそうな顔。
ダンスチームの頃は見たこともなかった。
やっぱり夢心はアイドルになりたかったんだな…

ライブが終わり満足そうな夢心。
(なんていい笑顔をしているんだ)

事前にCDを購入し握手券を買っていたが握手会には参加せずにライブもまだ何組か残っていたが会場を後にした。
(今、僕が夢心にあったら夢心の夢を邪魔することになってしまうかも知れない)
綺麗事を言えばこうだがただ会うのが怖かっただけかも知れない。
ただ僕には分からない。心理カウンセラーの人でも呼んで欲しいもんだねと皮肉か笑顔を浮かべた。
でもこれでいいんだ。これで。

雪が積もる帰り道では人の声はなかなか聞こえない。
僕は気付いたらさっき聞いた呪文みたいな言葉を呟いていた
「ゆめものダンスはキレッキレ。ゆめものダンスはキレッキレ」