シン・エヴァンゲリオン劇場版考①:補完後の世界 | アントニオ(教授)のブログ

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初めてエヴァを観たのは1997年2月の再放送、第九話の「瞬間、心、重ねて」でした。当時学生から「エヴァは色々な見方が出来る作品ですよね」と言われたのを覚えています。ロボットアニメとしての見方、登場するキャラクターに感情移入する見方、色々ありますが、私は「人類補完計画」に心を惹かれました。当時、なぜ気候変動(温暖化)等の環境問題が起きたのか、やはり人口が増えすぎたからではないか、人口は減らすべきなのか?、それはどうやって?、(自身の研究が医療系なので)自分がやっている研究は人を生かす事に繋がるが果たしてそれは良いことなのか?なんてことを考えている時でしたから(いや今でも考えますが)、「群体として進化に行き詰まった人類を人工的に進化させる」なんてテーマは本当に興味深かったのです。とはいえ、最初が第九話ですから最初の印象は「何なの、このギャグアニメは?」でしたが(苦笑)

その人類補完計画については、TVアニメ版、旧劇版、いずれもそれなりに満足しましたし、新劇場版のそれも結果的にその最後はほぼ同じ訳ですが、そもそもの計画内容や発動方法などは異なりますし、そして何より「よく分からない」部分があるので、人類補完計画についてはもう少し考察してから書かせて頂くとして、ここでは、今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版:|┃」(以降、シン・エヴァ)を観て最初に考えたことを書かせてもらいたいと思います。

最初に考えたこと、それは補完後の世界、駅のホームのあのシーンを観て考えたことです。

シン・エヴァについては、TVアニメや旧劇版と比較してもあまり意味が無いように思います。比較するなら、コミック版です。なぜなら、コミック版の本編ラストで描かれる補完後の世界でも、電車、駅のホームが出てくるからです。

以下、コミック版のラストを簡単に紹介します(詳細は是非コミックを読んで下さい)。

補完後の世界。シンジ君は雪の舞う地方都市から電車に乗って高校受験のために上京します。その電車の車窓から、何体もの磔にされたように手を広げた人型の巨大な遺跡が見えます。「あれは何?」と質問する子供に、母親が「遺跡。偉い先生が調べても、いつから建っているのか、誰が何のために建てたのか分からないんだって」と答えます。コミックを読んでいれば、これらは人類補完計画の時に地表に落ちた量産型エヴァの遺跡である事が理解できます。つまり、コミック版では、人類補完計画が発動(しかしシンジ君の願いにより人は人として生きることになる)した後、かなり長い年月(数千年?)が経った世界にシンジ君が生きていることになります。

さて東京のある駅に到着したシンジ君は、そのあまりに混雑した電車の中で「いたい、いたい、いたい、通してよ!」という声を耳にし、その声の主の手を引いて電車の外に出してあげます。アスカでした。シンジ君は手を握ったまま「前にどこかで会ったことない?」と尋ねます。アスカは「キモッ!離してよ!あんたなんてこれっぽっちも知らないんですけど!」と言いつつ、「まぁ、助けてくれたからお礼は言っておくわ。ダンケシェーン!」と言って去って行きます。するといつのまにかシンジ君の隣には別の男の子がいて「オレ好み。東京にはあんな可愛い子がいるんだなぁ」と呟きます。ケンスケです。ケンスケはシンジ君を見て「もしかして受験生?ライバルだな、お互い頑張ろう!」と言って去って行きます。「うん、がんばろう」と誓って歩き出すシンジ君の鞄には、ネルフが戦自に攻め込まれた時、ミサトさんがシンジ君をエヴァ初号機に乗せようとした時にシンジ君に渡した、十字の首飾りが輝いているのでした。

コミック版のこの最後のシーンと、シン・エヴァの最後の駅のホームのシーンを比べると、大きく異なる点が2つあります。この駅のシーンを通して、これまでのエヴァと新劇場版の違いを言いたかったのかなと思います。

一つ目は時間軸です。

コミック版では、明らかにエヴァが遺跡となったと思われる人型の遺跡が存在しているので、補完計画が発動した時間軸と同じ時間軸と考えられます。ただ非常に長い時間が経過しています。ちなみにTVアニメと旧劇も同じ時間軸ですが、これは補完計画が発動して失敗したところ(シンジ君の意志で元の世界に戻ったところ)で終わってますね。

それに対してシン・エヴァでは、シンジ君曰く「エヴァが無い世界」、綾波曰く「ネオンジェネシス」に「移動」します。皆そこで「別の生き方」を生きることになります。これは異なる時間軸、並行世界に移動することを意味しているように見えますが、おそらく、「同一時間軸上の、エヴァが無い過去に移動して、世界をやり直す」ことだと思います。そうすると、エヴァがあった「未来」は消えてしまうように思えますが、「過去にそのような未来があったことは間違いないから消えない」のです。なぜそのように考えるかというと、シン・エヴァのサブタイトルにあります。"Thrice upon a time"です。これは、J.P.ホーガンの「未来からのホットライン」という小説の原題です。この小説でそのような世界が描かれているのです。同一の時間軸だと考えれば、なぜシンジ君の首にDSSチョーカーが付けられていたままだったのかも分かる気がします。カヲル君が「また3番目とはね」「今度こそ君を幸せにするよ」と言うのも、(第一使徒、アダムだから?)記憶を残したまま何度も過去に戻って世界をやり直しているから、と説明できるかもしれません。Qのサブタイトル、"You can(not) redo."にも繋がりますよね。

もう一つは、ミサトさんの存在です。

コミック版では、ミサトさんから受け継いだ十字の首飾りがシンジ君の鞄に付けられています。これは、シンジ君がミサトさんに守られていることを表していると考えられます。それに対してシン・エヴァでは、ミサトさんから与えられたDSSチョーカーをマリが外してしまいます(なぜあそこでミサトさんはシンジ君にDSSチョーカーを付けたのかは別の機会に)。これは、ミサトさん=母性、母による守護は必要ない、もう「大人になった」という意味ではないでしょうか。声も声変わりして神木君になってますし(笑)。

ミサトさんが「母」であるイメージですが、シン・エヴァに印象的なシーンがあります。第3村からブンダーに戻ったアスカに対してマリがワンコ君とのことを尋ねたとき、アスカが「(シンジに)必要なのは彼女ではなくて、母親よ」と吐き捨てた次のシーンがミサトさんでした。これは、ミサトさんがシンジの母親のイメージとして描かれていることを示唆していると考えられます。しかも今回実際に母親になっていますし。

ではなぜマリと一緒に新しい世界に出て行ったか? それについては、やはりこれに触れておく必要があります。

女性キャラクターの名前です。

赤木、葛城、伊吹、惣流、いずれも空母の名前です。つまり「母」です。ただ、綾波だけ駆逐艦です。綾波が他の女性キャラクターとは違うことを意味していると考えられます。ところが、新劇場版で惣流が式波に変更になりました。式波は綾波と同じ駆逐艦です。なぜアスカの名前が綾波と同じタイプの名前になったのかはずっと謎だったのですが、シン・エヴァで分かりましたね。まさかアスカもシキナミ型のクローンだったとは。。

さてそうなるともう一人、真希波はどうなのでしょうか? 実は真希波も駆逐艦なんです。でも、マリはクローンではありません。どういうことでしょうか?

綾波、式波、真希波は、旧海軍では駆逐艦ですが、実はいずれの名前も海上自衛隊に受け継がれていて、現在はいずれも「護衛艦」なのです。つまり、綾波、式波、真希波の3人は、シンジ君を「護る」役割がある、という解釈ができるのではないでしょうか?

その視点でマリについて考察します。

真希波マリは、16歳で大学に入学した才女で、先輩にユイがいて、ユイのことが好きであることをユイに告白しています。意地悪のつもりで隠し持っていたユイの眼鏡を譲り受けることになります。これらはコミック14巻のラストに描かれていますので是非お読み下さい。イギリスに留学することになったマリは、その後ユーロネルフに所属することとなり、そこでアスカと知り合うのでしょう。ユイが重要人物であることはネルフでは周知の事実で、そのユイから眼鏡を譲り受けていることからアスカはマリのことを「コネメガネ」と呼んでいるのではないでしょうか?

さて、ユイは自ら望んで初号機の中に残ります。それは、シンジ君に(セカンドインパクト前の)美しい四季がある世界を再生して欲しいから(このあたりのことは別の機会に書きます)。コミック14巻で、ユイがまだ幼いシンジに対して「世界中の人達の幸せをあなたが守るのよ」と伝えるシーンがあります。そして、そのように計画が進むように仕向けることを研究室の後輩のマリに託したのではないのかなと思うのです。それが、破の冒頭でマリがつぶやいていた「目的」。ユイさんのためにシンジ君を護ること、セカンドインパクト前の世界をシンジ君に再生させる事がマリの目的なのです。それはつまり人類補完計画を失敗させること。大人の目的とは違うわけですね。

だから、最後のシーンでのシンジ君の相手は、綾波でもアスカでもなく、マリだったのだと思います。きっとそれがユイの願い。もっとも、綾波の隣にはカヲル君が(反対側のホーム)、アスカのそばにはケンスケがいるんですもんね。コミック版ラストではアスカのことを「すっげぇかわいい子だったなぁ、オレ好み」と言ってたケンスケが、シン・エヴァではアスカのパートナーとなることも感慨深いです。

まとめると(苦笑)

シンジ君が、レイやアスカと出会って成長して、ミサトさん、そしてユイという「母」から親離れして大人になって、実はずっとシンジ君を導き護っていたマリと共にエヴァのいない「元の」世界に羽ばたいていく、そんなラストシーンだと思いました。


次は、人類補完計画について、かな??