仮面執事と銀のギター(今は赤だけど…orz) -6ページ目

廃墟を駆ける

あのひとを乗せて
あたしは走った。

燃料や電気が必要な乗り物が
通用しなくなった世界で

あたしは大切な乗り物として
必要とされた。

みんなあたしを可愛がってくれた。

ブラシで髪をとかしてくれた。
おなかをさすってくれた。
時に自分のぶんまで削って
たくさんの餌をくれた。

あたしはその行為に報いようと
ニンゲンやものをのせて走った。

原初にかえった世界を。

やがてあたしに乗るのは
一人のニンゲンだけになった。

世界を救う」が口癖の
夢想家だった。

あたしは彼のためにひた走った
どこに向かっているのかは
彼しか知らなかった。

やがてあたしは力尽きて
彼はあたしを乗り捨てて
自分の足で駆けだした。

助けて」と言いたかったけど
彼は世界を救いに行ったのだし
あたしはウマだから
あたしは彼にゴールに辿りつてほしかったから

地面に寝そべり、
粗く息をしながら
最後の時を待った。

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ドッペルゲン烏賊

タコは煙幕のように墨を広く吐いて

イカであるぼくは
自分の分身のように
墨をひと固まりにして吐き出す。

みんなと同じで
ぼくもまた純真な子供だった。

大人になって
ぼくは社会に適合するため
言われるがまま
それまでの価値観をぜんぶ捨てた。

明らかに相手に落ち度があっても
こちらが謝ったほうが
丸く収まることを覚えた。

仕事のための仕事というものが
存在することを知った。

大きな組織の中で
いつの間にか
何かを変えようとしても変えられない
小さな細胞になっている自分に
気が付いた。

今ここにいるぼくは
本当にぼくだろうか。

もしかしたらぼくは
逃げる時に吐きだした墨のかたまりで

ほんとうのぼくは
どこか遠い遠い場所にある

とても静かで
色とりどりのサンゴで彩られた
食べ物に困らない豊潤な海を
泳いでいるのかもしれない。

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尻尾を切ったあなたに捧ぐ

あなたは、何も知らなかった。

リスの尻尾っていうのはね、
いざとなったら、切れるのよ。

大切なものに見えたから
あなたは
私からそれを力づくで奪った。

でも見当違い。

当たり前だけど、
切れたところはズキズキ痛む。

幻肢痛っていうの?
尻尾は切れてなくなったはずなのに
今でもその感覚があったりする。

でもそれよりも心が痛い。

裏切られたことがショックというより
理性的と思っていたあなたが
そこまで分別のない低脳だったことを
見抜けなかった後悔。

あなたは教養がない代わりに
人気がある。

人気にかこつけて
あなたはまた誰かを私のように傷つけて
傷つけた自覚もなく
また別の誰かを傷つけるのでしょう。

あなたを殺すことが
世界にとって有益なことなのだけれど
私は穴倉に住む小さなリスで
そんな度胸も力もない。

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