仮面執事と銀のギター(今は赤だけど…orz) -5ページ目

PLATYPUSの毒爪

がぶりと水にもぐって
目を閉じる。

水と一体化した私には
目を開けている地上より
鮮明に感じることができる。

水草の揺れを
水流の行く先を
獲物の位置を

クチバシのそこかしこで。

周りから見れば
ひどく落ち着いているように
見えるかもしれない。

しかし私は
常に不安を抱えている。

予想外のことがいつ巻き起こるか
分からない。
たぶん誰にも。

毒の爪を研ぎ
周囲に気を配り
いつでも反撃できるように
いつでもトンズラできるように

気を張っておかねばらない。

疲れたとか面倒くさいとか
弱音を吐いている暇はない。
世界は、一秒たりとも容赦ないのだ。

たかだか700万年前に生まれたニンゲンには

6500万年以上前に生まれて
生きながらえている私からのアドバイスは
ちょっと難しかったかな。

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春と蛙と音のない性欲

ああ、発情期のカエルって
なんて残酷で
いとおしいんでしょう。

一度スイッチが入ったオスは
メスを奪い合って相撲を取るの。

そして勝ったほうがメスに乗るの。
メスの意志とは関係なく。

時にメス一匹にたくさんのオスがむらがって
一斉に求めるものだから
その圧力で死んでしまうこともあるの。

間違えて抱きつかれたオスが
死んでしまうこともあるのよ。

そんなに見境がない性欲を
持っているというのに
私には誰も乗ろうとしないの。

自分で言うのは何だけど
悪くないと器量だと思うし
卵を産む健康な体だって
ちゃんとあるのに。

現実を見ろって?

理解できないわ。
あなたの言う現実なんて
私にとっては現実じゃない。

あなたの言う現実を
現実と認めてしまったら
私は生きていけないじゃない。

それをわかった上で
そんな説教たれるんなら
私の背の毒で殺してやるから
ビビってないで、乗ってみなさいよ。

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雨蓋とカモメ

雨で翼が濡れるから
普通のカモメなら
木陰や軒下で
羽を休めるものだけれど
おれは飛ぶ。

羽を休めて
大人しくしていると
昔あった嫌なこととか
恥ずかしいこととか

本当なら忘れて然るべき
他人からすればどうでもいい
自分にとってもどうでもいいはずの
ふざけた記憶で
頭が一杯になっちまうから。

雨は冷たく
いくら羽ばたいても身体は凍えて
無限に動ける訳もなく
飛ぶためだけに食べる。

そして活力を取り戻したら
また忘れるために飛ぶ。

飛び続けているうちに
何のために飛んでいるのか忘れて
晴れ渡った空を
目的もなく気ままに
飛べる日が来ると信じて。

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