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「異人たち」

 “ALL OF US STRANGERS”

  (2023/英=米/ウォルト・ディズニー・ジャパン)

 

 監督:アンドリュー・ヘイ
 原作:山田太一
 脚本:アンドリュー・ヘイ
 
 アンドリュー・スコット ポール・メスカル
 ジェイミー・ベル クレア・フォイ
 
 おすすめ度…★★☆☆☆ 満足度…★★★☆☆
 

 
大林監督がメガホンをとった映画「異人たちとの夏」はスクリーンで観た。
山田太一の原作も同時に読んだ。
 
あの山田太一の原作がイギリスで映画化されて話題になっているというネットニュースを見たのはつい最近だった。
 
本作「異人たち」は原作の舞台をロンドンとその郊外の住宅地に移して、都会で一人暮らしの独身脚本家の孤独な生活と同じマンションに暮らすもう一人の男との交流をベースに、12歳の時に死別した両親と再会した脚本家が自分自身の人生ともう一度向き合う物語。
 
主人公アダムは30年前に事故で他界した両親の思い出をベースにした脚本を書こうとしていた。
ある日両親と暮らした郊外の町へと電車で向かうが、そこには家族で暮らした家が当時のまま残っていた。
 
そこでアダムは死別した両親と再会する。
両親は亡くなった歳のまま若く、大人になった息子の成長を喜んでくれた。
 
大林監督の「異人たちとの夏」(1988)では風間杜夫演じる主人公が幼少期を過ごした浅草で両親と再会する。
父親役が片岡鶴太郎で、母親役が秋吉久美子だった。
 
この母親役をずっと池脇千鶴だと思い込んでいた。
年齢的にもバランスが合わないのになぜ?ということだろうけれど、実は後に舞台化された「異人たちとの夏」を2009年に観ていて、この時の母親役が池脇千鶴だったからだろう。
舞台版では主人公を椎名桔平、父親を甲本雅裕が演じていた。
 
今回の「異人たち」が日本版と大きく違うところがある。
映画でも舞台版でも主人公はマンションで出会った孤独な女性と恋仲になる。
 
しかし本作では相手は孤独な男性である。
つまり昨今のLGBTQの問題から主人公がゲイであることが明らかになる。
 
現在のイギリスでは同性婚の法制化も進んでいるようだが、10年ほど前まではかなり差別意識が強かったらしい。
法制化の流れの中でそれだけ社会的な関心事となっているのだろうか。
 
一方の日本では同性婚の国レベルでの法制化は進んでいない。
かといって差別的であるかと言えば、むしろ無関心というべきで、当事者以外にとっては実はあまり社会生活上で意識するテーマではない。
 
だから山田太一の原作にあえてLGBTQの問題を掛け合わせた製作サイドの意図は分からないけれど、原作も映画も知っている側からしたら、それでは全く別物だよと思えてしまう。
 
もっともストーリー展開も知っているうえで観ているので、落としどころがどうなるんだろうというところに関心があったけれど、意外と静かな終わり方だった印象。
 
やはり日本の夏=幽霊という落としどころがあるから夏の浅草というシチュエーションも嵌ったのは確か。
もちろん日本の夏は死者が帰ってくるというお盆の季節だ。
 
死別したはずの両親との再会の日々の描き方も、日本の夏のそれとは違うものの、欧米人にとっては琴線に触れるものがあるのだろう。
 
それにしても大林監督は死者との再会の物語が多い。
新尾道三部作の「ふたり」(1991)では交通事故で亡くなった姉が幽霊となって妹を見守る。
同じく「あした」(1995)では客船の遭難事故で亡くなった人たちが一夜だけ甦り、残された者たちに別れを告げる。
いずれも個人的にも好きな作品だ。
 
久しぶりに原作を読み直そうと思ったらどうやら引っ越しの過程で処分してしまったようだ。
 
大林監督の「異人たちとの夏」も観なおしたくなったので探したらレンタル落ちで手に入れたVHS版が残っていた。
VHSレコーダーはまだ動くはず…。
 
 

 ユナイテッド・シネマ前橋 スクリーン6