ルノアール日録 -5ページ目

引退

昨日、スポーツ紙の記事にて、井上堯之の引退を知る。

事務所発表を含む記事上では、いまいちその理由が説得力に乏しいと感じられて判然とせず、他に何らかの事情があるのでは…と考えてしまうのだが。

無粋な詮索はともかく、少なくともこれでザ・スパイダースとPYG、幸いにしてメンバー全員が存命中(と思われる)の、日本のロックの成り立ちを語る上で欠かせない、そして筆者が大好きな2つのバンドの“再結成”の可能性が絶たれてしまったことは確かな訳で、そのことはやはり残念過ぎる。

堺正章&井上順&ムッシュの横でギターを弾く姿、或いはジュリー&ショーケン&岸部一徳の横でやはりギターを弾く姿を観ることができる、かも知れない…、その可能性が、完全に消滅してしまったのだから。

特にスパイダースについては、ごく最近、オリジナルメンバー7人による再結成の話が寸前まで行きながら、「諸事情」により頓挫してしまった、という話を某雑誌の記事で読んだことがあるし、何年か前の紅白にムッシュ&マチャアキと共に「ソン・フィルトル」として出場した時は、“これってスパイダースじゃん!”と、かなりワクワクした覚えがあったものだから、より残念度が高いのだ。

アナーキー

クリスマスイヴの夜、敢えて(笑)日本のパンクロックの草分け的なバンドの一つ“アナーキー”を描いたドキュメンタリー映画『アナーキー』を、シアターN渋谷で鑑賞。

日本のパンク/ニューウェーブというと、東京ロッカーズや“関西ノーウェーブ”勢をはじめ、どちらかといえばニューヨーク(US)パンクの影響が強いバンドが多いイメージなのだが、その中でアナーキーは、ロンドン(UK)パンクの影響をダイレクトに表現した最初期のバンド、というふうに捉えることができるだろう。

流石に元アナーキー親衛隊の監督が作っただけあって、1980年前後の初期アナーキーの熱過ぎる(バンドと客の距離が異様に近い、というか殆ど入り乱れているサマ)ライヴ映像、親衛隊などファンの強烈な姿(パンク/ニューウェーブのフィルムを観るといつも思うのだが、洋の東西を問わず、バンド自身よりもファンの姿の方が、見た目的にも行動的にも強烈なオーラを発している)やメンバーのオフの姿、当時のテレビ番組における宇崎竜童による親身なインタビューなど、貴重な映像がふんだんに盛り込まれている。

……のだが、それらが縦横に切り刻まれて編集されている上、現在のメンバーや様々なミュージシャン(人選がなんか、イマイチ)へのインタビューが被さったり挿入されたりしているので、ライヴ映像、及び映像とシンクロした演奏・楽曲をじっくり観聴きしたい当方としては、些かストレスフルな作りだったのが残念。

メンバーの内、逸見泰成(マリ)の独りヴィジュアル系を先取りしていたかのようなルックスが目を引く。諸々のジャンルがまだまだ未分化だった時代ならでは、というべきか。

ケラ

23日の天皇誕生日に、三軒茶屋にある世田谷パブリックシアターで、「KERA・MAP」の『あれから』を観劇。

ケラリーノ・サンドロヴィッチの脚本/演出の重層的、複合的な面白さにあらためて感じ入る。

2組の熟年夫婦と、彼らをめぐる人々の関係を鮮やかに巧みに、コミカルかつ辛辣に描く(結果としては、微温的なハッピーエンドに落ち着くので、些か拍子抜けだったのだが)。登場人物相互の“秘密”が暴露され合うクライマックスの“たたみかけ”など、圧巻。

主演女優2人…高橋ひとみと余貴美子よりも寧ろ、高橋克実と渡辺いっけい、2人の男優の演技に惹き付けられる。舞台におけるその実力を、生でまざまざと見せつけられた思い。

岩佐真悠子は、演技力は流石に周囲と比べて稚拙ではあるのだが、予想を超えた大胆な体当たりぶりに、並々ならぬ女優魂と覚悟が感じられて、今後が大いに楽しみ。

設定を無国籍にした意図はよく判らない。普通の日本人の物語としても全然違和感ないのだが。